12月26日 頭のなかの万国旗と、手の甲のアザ
家族と去年の冬の思い出話をしていたら、胸ががさがさしてきました。
お風呂に入っていったん落ち着いたのですが、布団に入って部屋が真っ暗くなった途端、急にまたがさがさ。体が痛いような怖いような。
寒気というわけじゃないけど、体はあったかくても指先だけ凍えているような感覚です。
早く寝ちゃおう。
思って目をつぶると、たくさんの景色が見えはじめました。
陶器でできた水色のイルカのランプ。
ビル群を描いたタペストリー。
バニラのようなほんのり甘い香り。
階段の手すりの角は、チェスのポーンの頭みたいな形。
古い板張りの床はキャラメル色で、一歩ごとにぎしぎし鳴る。
ドアを開けるとまず、黒い棚に座ったミッキーマウスのぬいぐるみが見える。
そうやってブクブク沈んでこんでしまうと、もう、どうしようもないのです。
目を開けたって、暗くて周りが見えないから同じこと。胸がぎゅうぎゅうする、ちゃんと息をしなきゃ、って焦ると過呼吸になってしまうから、がんばってゆっくりゆっくり深呼吸。
ばらばらな場面の写真と動画に溺れます。
いったん、頭を完璧に切り替えるしかないのです。それがすごく難しい。
隣のベッドで寝ている父上に気づかれないよう、ふとんのなかでこっそりスマホを点けて猫の癒し動画を検索したり、楽しかった部活の合宿のアルバムを見返したり。
見えるものを無理やり上書きします。
今のところ、いちばん安全な脱出策がそれです。自力で、今いるところに帰ってくる方法。
他の帰ってくるときの方法は、近くの人に強引に起こされる(ありがたい)だとか。過呼吸になって、苦しくてそのまま寝ちゃったりだったとか。
あと、眠かったりしてぼうっとしていると、思い切り手の甲に反対側の指でぐりぐり握りこんだり、つい指の間接部分に歯を立てたりしてしまっています。絶えない手の甲の小さなアザ、手すりや壁によくぶつけてるからだと思っていたけど、自業自得説が本日浮上しました。
昔から、こんなふうに思い出のなかに入り込んでしまって、出られなくなることはときどきあったけど、こんなに苦しくなかったと思う。
自分のいるところがわからなくなるほど、ここまで困るほどじゃなかったと思うんです。
かといって、本や授業でよく聞く、フラッシュバックだと言われると、やっぱり違うと思うんです。
そんなに大げさなものじゃないよ!って思うんです。私はいつもこんなふうにものを思い出してる。それがときどき強すぎるだけなんだよたぶん、って。
たしかにトラウマ的に毎回同じきっかけから同じ画面が出てくるのもあるけど、それ以外のごちゃごちゃな場面で溺れることも多いのです。
そういや、前にも似たようなことを書きました。
なにかきっかけがあると、つりりつりり、連続して記憶が出てきます。
写真か、GIF動画、長くても5秒程度のムービーで、過去の風景が見えます。マジックで袖から万国旗を出すみたいに、次から次へひらひらと。
だって頭のなかの写真や3秒動画は、「出す」んじゃなくて、勝手に出てきちゃうのです。
(中略)
そして、この勝手に出てきちゃうというのが、なかなかに困りものです。
きっとほかの人もみんなそうだと思うのだけど、昔の場面を見たり、思い出したりしているときは、いま目の前の景色が見えなくなります。
今していることを忘れて、しゅるしゅる出てくる万国旗を眺めているとき、たいがいはすぐに自分で止められます。帰ってきます。
それは「あ、いかん、何しなきゃいけないんだっけ!」とか「待った授業中だ!先生の話どこまで進んだ!?」と気づいたりとか、「あれ、私なにか気に障ること言った?」と友達に声をかけられたりとか。
いわゆる、我に返る、というかんじ。
ところが、ときどき、これが止められないときがあります。
この思い出し方自体は、小さいころから変わらないのです、たぶん。
単に最近は、その暴走が多いです。
忘れちゃってたはずの記憶の穴ぼこ、目隠し布の向こう側が、ときどきちらっと見えてしまうのです。それで引っ張り込まれる。
それはまた別の話として書きます。