3月21日 口に指
考えこんでいるときや、ひどく焦っているとき、左手の曲げた人差し指の関節をガブガブしてしまう癖があります。
元々は、いつの頃だったか曲げた人差し指を口元に当ててこする母の考えるときの癖がうつったものが、やがて歯にこするようになって、ガブガブになって――と移行してしまった形です。
できれば直したいし、とくに人前では絶対にやらないようにはしています。
それでも、目立つ大きさの固いタコが今も赤く居座っているあたり、未だに知らず知らずのうちにガブガブしてしまっているようです。
「『口癖』が悪い」と、幼い頃からよく言われていました。
卒乳は2歳半。
指しゃぶりの卒業は、小学校に入ってから。
家の椅子の背もたれも、鍵盤ハーモニカやリコーダーの口も、帽子の紐も、ガシガシかじるからひとりだけボロボロ。
爪や手足の皮をかみちぎってしまう癖。
お箸を噛んで折ってしまうことさえありました。
中学に入っておおかた落ち着いて、今気になるのは先述の人差し指かじりくらい。
今までとくに意識していなかったけれど、発達障害について調べるうち、それも特性と関係あるのかもしれないと思うようになりました。
指しゃぶりをやめるときのことについては、今でもよく覚えています。
「かっぱは、毎晩指をちゅうちゅうしてるから」と、母は私の親指にラップを巻いたり、その上からわさびを塗りこんだりしました。私自身も「やめなくちゃいけないんだろうな」とは薄々思いつつも、その必要性はあまり感じていませんでした。
そのときになって初めて、私は「もう、ほかの子は指ちゅうちゅうしてないんだ」と気づきました。そして次の瞬間、猛烈に恥ずかしくなったのでした。
その夜から、私はぴったりと、指しゃぶりをしなくなりました。
代わりに、タコのある親指の背を同じ右手の人差し指でさする癖がつきました。ぽっこり固く膨らんだタコを、「早く消えないかな、見られたら恥ずかしい」と何度もさする。
今では、左手の人差し指に似たような状況が起きています。
タコは同じく恥ずかしいのに、こちらの噛み癖がなかなか治らない。
原因となるような不安の元をなくすのがいちばんだとわかってはいますが、もう幼子でない今はむずかしいことばかりです。
小さい頃のようにおばあちゃんやお母さんに抱きつけば安心するというわけではありません。不安の元も、駅の喧騒であったり、上の階からの振動であったり、取り除けないものがほとんどです。
何か代わりに固いものを噛めば落ち着くのではないかと思い、大好きなシャケの燻製やらビーフジャーキーをかばんの中に忍ばせておいて、大きい駅に着く前からコソコソ食べてみたりしました。とてもおいしい。楽しい。でも、効果があったという感触はなく、ただただお財布が軽くなるのみでした。
どうしたら治るのかなあ。